音楽の効果① / 感情を動かす

アーティスト・イン・ばあちゃんちオフィシャルウェブサイト


私には、絶対に忘れたくない音楽体験があります。


それはウィーン留学時代のこと。楽友協会やオペラ座など、世界のトップ奏者たちが集い、最高の演奏をしようと競い合う「音楽の都」ウィーンで、私は決してコンサートホールに足を運びませんでした。間違った練習のしすぎで、高校時代まで打ち込んだピアノを弾けなくなり夢に破れてから、楽器に触れることも、音楽を聴くことも、私には苦痛でしかありませんでした。


留学生活にも慣れてきた頃、かたくなになっていた私を変えた体験があります。

それは、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団が、ウィーン・コンツェルトハウスにやって来た時のこと。私は友人に強引に口説かれて、しぶしぶついていったのでした。

曲目はオール・ベートーヴェン。定番の《田園》と、のだめで有名な交響曲7番がプログラムされていたのだけ覚えているのですが、私はこの公演中、ほとんど泣きじゃくりながら舞台を見ていました。

指揮と演奏が素晴らしかったのはもちろん、演奏者たちがここぞとばかりに楽器をブンブン振り乱しながら全身で一音一音を輝かせている様子が、ことばを超えて私の心を動かしたのでした。


楽器をはじめてさわった日のこと。憧れの曲を弾けたときのこと。師匠に上達したねと言われた日のこと。


つらい体験が重なってできたかさぶたが取れて、幸せな思い出が一気にあふれ出たのだと思います。当時、感動冷めやらぬ私がなぐりがきした日記によれば、

寄り道で学んだいろんなことや、経験したことを
音楽の学びに生かしつつ、
音楽の学びからも学びつつ。

うれしいことも、つらいことも、すべてが一音一音の輝きになっている。人生のように時間とともに流れていく音楽という芸術には、必要としている人に、ちょうどよく響く音程があるのです。


たとえ明日誰も友だちがいなくなっても、愛する人と離れてしまっても、お金がなくて苦しくても、この瞬間があったから、明日もがんばろうと思える。そんな感動の瞬間をなるべく多くの人に届けるために、私は音楽に絶大な信頼を寄せているのです。

AIGR / Artist in Gramma's Residence

ばあちゃんに、あの音をもう一度聴かせてあげたい―。そんな思いから、3つのささやかな音楽プロジェクトが生まれました。ばあちゃんのネットワークとおもてなしに新しい交流が加わり、ばあちゃんも、地域も、元気に。

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